2021年12月17日金曜日

ブルキナべの温かいあいさつの言葉

 


これは、フランスのアルプス地方に住む娘の義母が、わたしたちがワガドゥグで暮らすことになったときに贈ってくれた陶器製の玄関プレートです。最初の滞在中はずっとわたしたちのアパートの玄関に取り付けていました。
エーデルワイスの花と優しい色使いのプレートが帰宅の度にわたしを和ませてくれたものです。そして、わたしたちがコロナの影響で日本に戻り、わたしたちが留守のままアパートを引き払うことになったときにプレートは取り外されるのを忘れられて、そのまま残されました。
そして、こちらに戻ってきて、また同じアパートの今度は4階に住むことになったとき、以前の2階の玄関前に行ってみました。でも、もうプレートはありませんでした。
ああ、あのプレートにもう二度と会えることはなくなったなあ。
あきらめて1か月ほど過ぎたときです。以前から変わらずに働く門番のアジーズおじさんと立ち話になり、そういえば~とプレートのことを聞いてみました。
もしかしたら、こんな形だったかい?、と地面に彼が描いた図はハート型だったのです!
にんまり笑って、ちょっと探してみるから待ってなさい。
ものの5分もしないでかれはこのプレートをもって現れました。きれいにティッシュでくるまれてビニール袋に入れられています。なんだぁ、かれが持ってたのか。
お金くれぃと言われましたが、そこはアジーズとわたしの間柄。日本からの飴玉10個とメルシーの言葉で取引は終わったのでした。
かれがプレートを取り外して1年半近くの間、大切に保管していたくれたからこそ再会できたプレートだった、心から感謝しました。

さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
ここの人たち、ブルキナベたちは、「ようこそ」、とか「おかえりなさい」、という場面で必ず聞かれる言葉が、「Bonne Arivee.~ボンナリべー」です。直訳すると、「良い到着を」となりますが、良く帰ってきましたねえ、という感じで、お疲れさまでしたという慰労の意味合いまで含まれていると感じる、とっても温かい響きです。決して、フランス語の辞書には載っていないフレーズ。バンギでもキンシャサでも決して聞くことのなかった表現です。昔、サヘル地帯の地域で、自分の村に帰り着くのがどんなに大変なことだったのか、と想像すると、この言葉に含まれる深い愛情を感じてしまいます。
わたしは、この言葉の持つ響きが大好きです。
聞けば、この「Bonne arrivee~ボンナリベー」は、ブルキナファソの最大部族モシ族の言語、モレ語のあいさつの言葉、「kind kinde~ケンケンデ」に匹敵する言葉なのだそうです。「よくご無事で帰ってこられた。」と苦労の多かった道のりをねぎらう言葉をこの国の人たちは持っていたのです。モレ語だけではなく、他の部族にも同じ意味合いの言葉があると、秘書の女性はきっぱりと言いました。


また、あいさつの時に、元気ですか?、と聞かれての返礼の時に必ず添えられる言葉があります。
Oui, ca va bien. Merci, et vous? 

という返礼が普通だと思うのですが、ブルキナベたちは、「et vous?~エ・ヴ?」(そして、あなたは?)とは言わずに「chez vous?~シェ・ヴ?」と返してくるのです。
「シェ・ヴ?」
あなたン家の皆はいかがかい?、あなたのとこのご家族はいかが?、のような感じです。
目の前のあなただけではなく、家族皆の様子をたずねているのです。
最初聞いたとき、なんと優しい思いやりのあるつけ添えだろうと感心しました。
夫の事務所の秘書の女性に聞くと、当たり前のように、だって家族皆のことをたずねるのが当たり前だと思うのだけど、とのことです。

Bon(ne)が付くフレーズは、フランス語でよく耳にします。
たとえば。
Bon voyage. Bon courage.です。
良い旅を。がんばって。
Bonne soiree.もあります。
良い夕べをね。夕方に分かれるとき、夜に外出する人に投げかけるあいさつです。
また、Bon travail. これはアフリカでは時々、耳にする言い回しです。フランス本国ではどうなのでしょう。お勉強をしっかり頑張るのよ、とか、しっかりお仕事してね、あるいはお仕事を頑張って、というときに使われているようです。
一昨日、仕立て屋のブティック(店内におしゃれな靴やかばんの商品も置いている)に行ったときに、初めて聞いたフレーズがありました。
「Bon marche~ボンマルシェ」
母が娘のためにクリスマスのプレゼントを選んでいたのでしょうか、二人で額を突き合わせて一生懸命にバッグを選んでいる光景に出会いました。バッグを買った母と幸せそうにバッグを抱きかかえる娘が店を出ていくときに、店主のマダムが母娘に投げかけたフレーズでした。
良い買い物を。
直訳ではそういった意味になるのでしょうが、良い買い物をしましたね、次も良い買い物ができますように、またのご来店を、という意味まで入っているのだとは秘書の女性の説明です。これまた良い響きの言い回しだなと感心しました。

それから、ここのモシ族では一日のうちで2つのあいさつの言葉を持っています。
①「Ney beogo~ネィビョーゴ」 これは、朝から昼12時半くらいまでのあいさつの言葉。
②「Ne zabre~ネザブレ」   これは、昼12時半以後に使われるあいさつの言葉です。

それでなのでしょうか。フランス語でかれらがあいさつを交わすとき、①に匹敵する言葉として、bonjour~ボンジュールと言い、②に匹敵するあいさつの言葉として、bonsoir~ボンソワールと使い分けています。
だから、ブルキナファソでは、まだ真昼間で陽は高いのに、「ボンソワール」とあいさつを交わすのです。このあいさつには、わたしは最初のころ戸惑ったものです。
お昼ご飯を食べ終わったとたんに、もう「ボンソワール」なのですから。
単純に辞書通りの意味だと、日本語でもう「こんばんわ~」とあいさつしているように感じられたのです。
わたしのブルキナベのフランス語の先生の話では、その昔、時計がなくて,時刻という概念がなかったころ、かれらの一日の進み方の目安となるのは太陽の位置だったというのです。日時計の感覚ですね。かれらは、野良仕事に出て、お日様が真上に来て、ちょっとでも高さが傾いてきたら、もう一日が終わろうとしているということで帰り支度に入っていたのかもしれません。
ボンジュールとボンソワール。男性ブルキナベがその言葉と共に、両方の掌を互い違いにして上下に合わせて軽く指を中に折って、一瞬立ち止まるようにしてあいさつをするときがあります。その挨拶の仕方に気品を感じるのです。さすがに高潔な人々のあいさつだなあ、と。

最後にもう一つ。
おやすみなさい。これは、フランス語では、「bonne nuit~ ボンニュイ」です。
モレ語では、「Wen na kond beogo~ウェナ コン ビョーゴ  」

ベッドに向かおうとする人に向かって、「神様が、わたしたちに明日を与えてくださいますように。」という意味を持っていると言います。戦があったり事故や病気があったりして、明日が来るのが当たり前ではなかった時代から人々に伝わる言い回しなのだなあと深く心に染み入ります。

そんな言葉やあいさつの言い回しにも、ブルキナファソ(アフリカ)の長い歴史の中で大切に育まれてきた文化があると感じます。そんな独特の文化を
これからも守っていってほしいと願います。


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